いかなる方向にもよく伸びるセラミック材料のしくみを解明 ~立方晶のように見えるのになぜ優れた圧電性をもつのか?~

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2020年10月13日

山梨大学工学部応用化学科の藤井一郎助教、上野慎太郎准教授、和田智志教授(東京工業大学元素戦略研究センター特定教授兼任)と広島大学の黒岩芳弘教授の研究グループ、九州大学の佐藤幸生准教授からなる共同研究グループは、結晶系が立方晶系に見えるにもかかわらず、優れた強誘電性と圧電性を示すセラミック材料の合成に成功し、大型放射光実験施設SPring-8でのX線回折実験により、機能発現のメカニズムを解明しました。

いかなる方向にもよく伸びるセラミック材料のしくみを解明 ~立方晶のように見えるのになぜ優れた圧電性をもつのか?~

図1 BT-BMT-BFセラミックスに電場を印加したときの強誘電性を示す分極曲線と圧電性を示す試料外形の電気歪曲線。

2 BT-BMT-BFセラミックスのX線回折パターンと電場印加下でのX線回折実験から求めた格子歪曲線(挿入図)。

一般に、結晶系が立方晶系に帰属する物質が強誘電性を示すことは結晶学的にあり得ません。したがって、そのような物質が優れた圧電性をもつことも期待できません。しかし、チタン酸バリウム(BaTiO3: BT)、マグネシウムチタン酸ビスマス(Bi(Mg0.5Ti0.5)O3: BMT)、ビスマスフェライト(BiFeO3: BF)を固溶させてセラミック材料を合成したところ、結晶系が立方晶系に見えるにもかかわらず、優れた強誘電性を示すことを発見しました(図1、2)。また、よく使われている圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr, Ti)O3: PZT)に迫る圧電性を示すことも発見しました(図1)。

SPring-8 において電場印加下でのX線回折実験を行ったところ、ビスマスイオンだけが理想的な原子位置からずれた結晶構造をしており、電場(電圧)を印加すると、電場方向にビスマスイオンが偏って結晶格子を大きくひずませることが、この一見立方晶系に見えるセラミックス材料に優れた強誘電性・圧電性が観測される仕組みであることを見出しました(図3)。

結晶系が立方晶系に限りなく近いことから(擬立方晶系:pseudo-cubic)、セラミック粒の如何なる方向に電場印加しても結晶格子が電場方向によく伸びることも確認しました(図2の挿入図)。特異な構造みだれのある材料を合成すれば、たとえ立方晶に見えても、その構造みだれを電場で制御することで高性能な強誘電体・圧電体材料として機能する可能性を示した研究成果です。

図3 BT-BMT-BF セラミックスの電場ゼロおよび電場を[001]、[011]、または[111]方向に印加したときの結晶構造。単位格子の角から結晶軸の方向にずれた位置にある紫色のイオンがビスマスイオンであり、電場を印加するとビスマスイオンが電場方向に集合しようとする。ビスマスイオンの存在確率を球の大きさで示している。

本研究成果は、英国の学術出版社であるシュプリンガー・ネイチャーがオープンアクセス・ポートフォリオを拡大するために2020年に創刊した材料系のネイチャー・リサーチ・ジャーナル「Communications Materials」のオンライン版に2020年10月6日付で掲載されました。

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