活力のある安全・安心な都市の創造

大学院総合研究部工学域土木環境工学系(土木環境工学)武藤 慎一

 2027年(予定)、リニア中央新幹線が品川-名古屋間で開業します。山梨県にも、甲府市大津町付近にリニア山梨県駅(仮称)が建設される予定です。リニア中央新幹線の開通により、甲府から品川まで25分、名古屋まで45分ほどで行けることになり、甲府盆地を中心とした山梨県に多大な効果がもたらされると期待されています。しかし、その効果を山梨全県に波及させるにはリニア山梨県駅(仮称)を中心に適切なアクセス交通ネットワークを構築することが大切になります。そのような交通整備を検討し、実際に建設することが土木環境工学の大きな役割の一つです。

 一方、リニア山梨県駅(仮称)周辺は、荒川をはじめとする中小河川が笛吹川と合流する地点であり、洪水リスクの高い地域です。災害リスクが高いので、駅とその関連の最低限の施設のみを整備し、他の施設は既存のものを使うということも一つの考え方です。しかし、それではリニア中央新幹線が山梨を通ることのメリットを十分に活かすことができないとの意見もあります。こうした難しい問題を冷静に議論し、適切な解を提示することも、もう一つの土木環境工学の役割です。

 以上の役割を果たすため、私たちはまず、様々な影響を評価するための経済均衡モデルを開発しました。これにより、様々な事象に対し、価格変化によって調整された結果生じる経済効果や経済損失の計測が可能になります。そして、リニア中央新幹線整備やそのアクセス交通整備、洪水被害やその被害軽減のための立地規制などの経済効果や経済損失を計測した結果が下図です。現在は、こうした計算結果の精度を向上させる研究を進めるとともに、これらの計測結果を踏まえ、活力がありかつ安全で安心な都市を創造するための具体的な政策を検討しています。

参考文献
1. 武藤慎一,宮下光宏,右近崇,水谷洋輔,猪狩祥平「都市交通整備評価のための一般均衡型CUEモデルの開発」土木学会論文集D3(土木計画学),Vol.73,No.5,pp. I_163-I_181,2017.
2. 平林和樹,武藤慎一「SCGEモデルを用いた中部横断自動車道の地域経済効果の計測」土木学会第72回年次学術講演会講演概要集,CD-ROM,第IV部門,IV-096,2017(優秀講演者賞受賞).
3. Muto, S. and S.K., Madhu “Integrated model of CGE and CUE modeling for evaluation of urban transport projects” Joint 10th International Conference on Soft Computing and Intelligent Systems and 19th International Symposium on Advanced Intelligent Systems, pp.19-26, 2018, DOI 10.1109/SCIS-ISIS.2018.00015.
4. 西鶴誠希,武藤慎一「CGEUEモデルを用いた立地適正化計画手法の提案」土木学会第73回年次学術講演会講演概要集,CD-ROM,第IV部門,IV-001,2018(優秀講演者賞受賞).
5. 武藤慎一,秋山孝正「都市の低炭素化のための交通・立地政策評価 ―応用一般均衡型都市経済(CGEUE)モデルによる分析―」交通学研究,Vol.62,pp.157-164,2019.
6. 武藤慎一,東山洋平,河野達仁,福田敦「交通生産内生型SCGEモデルの開発」土木学会論文集D3,査読有,Vol.75,No.3,pp.139-157,2019, DOI:https://doi.org/10.2208/ jscejipm.75.139.
7. 西鶴誠希,武藤慎一「洪水の経済被害評価と立地適正化計画を活用した洪水被害対策の検討」土木学会論文集D3(土木計画学),Vol.75,No.5,pp. I_233-I_249,2019,DOI:https://doi.org/10.2208/jscejipm.75.I_233.
8. 飯島翼,阿保谷崇,末木祐多,武藤慎一,佐々木邦明「都市内交通整備がリニア中央新幹線の整備効果に与える影響-山梨県国中地域の事例-」土木学会論文集D3(土木計画学),Vol.75,No.5,pp. I_957-I_966,2019, DOI:https://doi.org/10.2208/ jscejipm.75.I_957.