ナノ光反応による難問解決
大学院総合研究部工学域物質科学系(先端材料理工学) 内山 和治
光を当てると分子構造が変化するフォトクロミック分子が、集団になるとどのように振る舞うか。この疑問がナノスケールでの新しい現象の観察・発見につながり、社会の難問を解決する新機能を生み出す可能性が見えてきました。
私達は、化学の力で生み出された究極の結晶を用い、物理の力で世界唯一のミクロ観測を行い、数学を駆使して機能を実現します。
分子が整列したフォトクロミック結晶の表面に、数十ナノメートルの範囲に絞って光刺激を加えます。光の当たった部分は光反応により透明な分子クラスターとなり、周りの分子に新たな光刺激を加えるようになります。このナノスケールの透明クラスターが連鎖的に形成されることがわかってきました。
透明クラスターのサイズを、ナノスケールで光刺激と観察を行う特殊な顕微鏡により調べますと、30ナノメートルまで小さくできました。透明クラスターを一点として、アルファベットを描きました(山梨大学の英語表記University of Yamanashiの頭文字「UY」です)。このサイズの文字を使えば、新聞一冊分の文字を、髪の毛の断面に書き込むことができる計算になります。
透明クラスターの一点、一点には、周囲の結晶の並びに逆らって分子を変形させた歪みが蓄積されています。この歪みの足し合わせを「社会の難問」だとすると、この歪みの中で新たに生まれる透明クラスターは「問題の答え」を与えます。結晶の中の目に見えないほど小さな世界で起こる透明クラスター形成が高度な計算機となっていて、社会の難問に答えてくれるかもしれません。その最初の一歩として、日常で良く現れる順位決定と関係する行列を、透明クラスターの連鎖の結果生まれる光子で作ることに成功しました。
参考情報
この研究で研究室学生(中込君)がナノオプティクス賞を受賞しました。
https://www.yamanashi.ac.jp/21138
研究論文1 ナノ光でアルファベット描画
https://www.nature.com/articles/s41598-018-32862-9
研究論文1のプレスリリース
https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2018/10/20181004pr.pdf
研究論文2 結晶中の透明クラスターから生まれる光子で順序を表す行列を生成
https://www.nature.com/articles/s41598-020-59603-1
工学部先端材料理工学科 堀・内山研Webサイト
http://www.szr.yamanashi.ac.jp/lab/hori/