量子ウォークの定常性、局在性、再帰性の数理的構造の解明およびその応用

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 私は量子ウォーク(グラフ上の量子ウォークは辺上を伝わる波として解釈ができ、頂点は入射波を各辺上に散乱させる役割をもっています。)を研究対象にしています。量子ウォークは古典ランダムウォークの量子版(非可換類似物)として導入され、量子コンピューター周辺の分野より2000年頃から本格的に始まった新しい研究分野です。また、量子アルゴリズムの基本モデルとしても注目を集めています。近年では、量子情報の分野のみならず、量子物理、量子生物などの分野等でも活発に研究されています。古典ランダムウォークとの大きな違いは、量子ウォーカーの存在確率が量子ウォーカーの内部状態によって定められている点にあります。それゆえに、量子ウォークの確率測度の長時間挙動は古典ランダムウォークの挙動とは大きく異なっています。例えば、時刻nにおけるランダムウォークの標準偏差がのオーダーであるのに対して、量子ウォークの標準偏差はnのオーダーで広がっていきます(線型的拡散)。さらに、量子ウォーカーが原点から遠くに広がっていく一方で、出発点にとどまり続ける現象(局在化現象)が見られます。このような量子ウォーカーの振る舞いを調べるにあたって、時間発展作用素のスペクトルを調べることが重要となります。 最近では、主に以下のテーマに取り組んでいます。

 

【1: 伊原ゼータ関数と量子ウォークの関係】

「今野・佐藤の定理」を念頭におき、「有限グラフ上のゼータ関数」から「無限グラフ上のゼータ関数」への拡張を考えています。


【2: 量子ウォークの定常性と再帰性】

マルコフ過程で得られている一般論を量子ウォークに対して構築するには、量子ウォー クの定常測度や再帰性を明らかにすることが第一歩となります。

【3: 量子ウォークを用いたネットワークのコミュニティ抽出】

量子ウォークの諸性質を利用し「ネットワークのコミュニティ抽出」への応用を行いたいと考えています。ネットワークの中の密につながった部分は「コミュニティ」と呼ばれ、現実世界における多くのネットワークは複数のコミュニティがゆるやかにつながって構成されています。ネットワークからコミュニティを効果的に抽出する方法の開発は、複雑ネットワーク科学において重要な課題となっています。