新たな固体電解質・ヒドリドイオン伝導体を用いた新規デバイスの創成

新たな固体電解質・ヒドリドイオン伝導体を用いた新規デバイスの創成

 宇宙で最もありふれた元素である水素は,私たちの身の回りにも様々なかたちで豊富に存在しています.水素イオン(H+)は溶液の酸性・塩基性を決定したり,生体内の酸化還元反応に関わったりなど,自然界において重要な役割を担っています.また水素ガス(H2)は原料や試薬として化学プロセスに用いられるだけでなく,近年では石油に代わる次世代のエネルギー源としても注目されています.

 このような水素ですが,実はもう一つの姿があることをご存知でしょうか.それはヒドリドイオン(H)と呼ばれる陰イオンの状態です.K殻(1s軌道)に電子を一つもつ水素原子は,電子をもう一つ受け取ることでヘリウムと同じ閉殻構造となります.そのため,電子を放出しやすいナトリウムやカルシウムなどの金属と水素が反応すると,陰イオンであるHを生じます.H+とは対照的にHは高い塩基性を示し,マグネシウムに匹敵する強い還元力を持ちます.このような特徴は化学合成やエネルギー貯蔵といった用途に有利ですが,金属と水素を反応させることでしか得られないことから,これまで利用が進んできませんでした.

 私は固体の中をHが動く新しい材料—H伝導体を用いて,Hの活用を目指す研究を行っています.H伝導体を使うことで,電気を用いてHをつくり出したり動かしたりすることができ,また逆にHを用いて電気を発生させることができます.これまでは固体の中のHを動かすために300度を超える高温にすることが必要でしたが,精力的な研究の結果,室温でも作動する材料の発見に成功しました.これにより,Hを用いた化学電池や燃料電池などが構築できるだけでなく,様々な分析・解析が可能となります.このような研究は世界的にも始まったばかりです.H応用研究の先駆けとして「水素社会」実現への貢献を目指します.

 

新たな固体電解質・ヒドリドイオン伝導体を用いた新規デバイスの創成