計算工学を駆使した自動車工学の新展開

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■計算力学

 計算機の飛躍的な進歩により,数値計算による物理現象の研究が盛んに行われています.これにより,理論的または実験的な取り組みだけでは究明できなかった現象を明らかにしつつあります.この学問体系は計算力学と呼ばれ,対象とする物理現象を離散化し近似的な解法による数値計算を実行することで有益な結果を与えてくれます.計算力学では,固体に限らず熱や流体,電磁気など幅広い学問領域において研究が行われています.産業分野での利用も広く浸透しており,CAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアによる試作回数の削減や不良原因の究明,人体のモデル化などものづくりに欠かせないツールになっています.本研究室では,計算力学の基礎から応用までを広くカバーし,多角的な視点で革新的な数値シミュレーション手法の研究開発に取り組んでいます.

 

■非線形有限要素法

 汎用CAEソフトウェアが産業界に広く浸透しており,構造解析の分野では有限要素法(Finite Element Method:FEM)による数値シミュレーションが利用されています.そして,工学分野ではこれまでに線形と仮定した数値シミュレーションを行うことで多くの有益な結果が得られてきました.近年では,線形挙動だけでなく非線形挙動までを考慮した現象の評価が必須となりつつあります.この非線形挙動は,幾何学的非線形性と材料非線形性にわけることができます.変形量が明らかに大きい場合や金属のような弾塑性材料が考えられます.また,2物体の接触のような物体同士の境界に関する非線形性もあります.これらの非線形挙動を適切に解くためには連続体力学の知識に基づき有限要素近似を用いる必要があります.本研究室では,非線形有限要素法により複雑な現象をひもとき評価や可視化をする研究に取り組んでいます.

 

■自動車

機械工学で学ぶほぼすべての知識を統合して,自動車の「走る」「止まる」「曲がる」「乗り心地」などにおける力学の基礎を学び自動車の各構成部分および全体の原理・構造・設計へと応用する学問が自動車工学です.自動車工学に計算力学を導入して未来の新たな自動車の創り方を提案する研究に取り組んでいます.今後は新材料導入や振動騒音低減などを考慮した自動車構造を決定し,自動車運動や燃費さらには製造など考慮したエネルギーマネジメントを実施していこうと考えています.またこれまでの科学技術の常識を打ち破るような新たなシミュレーション手法を開発し,未来の技術の導入を見据えた乗り物の開発へと研究を展開していきたいと考えています.

 

■大規模計算

 計算機の高速化・大規模化により取り扱える物理現象の幅が広がってきています.これにより,現象全体のモデル化や異なるスケール間を結ぶ解析(マルチスケール解析),異なる場をもつ物理現象の連成解析(マルチフィジックス解析)が活性化され,数値シミュレーションによる現象の究明や評価手法の開発が期待されています.既に,本研究室では,マルチスケール解析や自動車の衝突解析を対象に一般的な計算機レベルからスパコンと呼ばれる大型計算機までを利用した数値シミュレーションに取り組んでいます.今後はさらに,最適化や流体構造連成など複雑な構造や物理現象を対象とした数値シミュレーションを実現したいと考えています.

 

■固体の破壊

 構造物や材料の破壊予測は寿命や強度評価の観点から重要な問題である.これまでに理論または実験による取り組みに加えて数値シミュレーションによる評価も行われてきたが,局所的かつ複雑な現象であるため未解決の問題である.経験式や材料モデルによるアプローチでは,材料定数の同定や破壊によって発生する不連続場の表現に問題があった.また,数値解析手法からの取り組みでは連続な場から不連続な場に変化する現象の取り扱いが大きな課題であり数多くの解析手法が開発されてきた.本研究室では,材料モデルと解析手法双方の研究成果を融合し,破壊の発生から破断までの一連の過程を一括して取り扱える数値解析手法の開発に取り組んでいる.

 

図1 対象となる物理現象

図 2 衝突シミュレーション

図3 最適化設計

図4 材料の破断解析