光・電子半導体材料とナノ構造機能素子応用の研究

光・電子半導体材料とナノ構造機能素子応用の研究

 私たちの研究室では、透明導電膜、高効率太陽電池材料、半導体ナノ構造などの薄膜成長から物性評価、機能素子応用までを行っています。成膜や結晶成長では、分子線エピタキシー(MBE)法と呼ばれる真空成長技術を用いています。また、電子顕微鏡(TEM, SEM)や元素分析(EPMA, XPS, AES)などの評価装置を用いて、作製した半導体薄膜やナノ構造などの特性評価を行っています。

1. 酸化亜鉛透明導電膜の作製と応用
 酸化亜鉛(ZnO)はワイドバンドギャップ半導体として、青色から近紫外の半導体レーザーや発光ダイオード材料として非常に注目されています。このような単結晶としての応用とは別に、ワイドバンドギャップであることを活かした透明導電膜としても盛んに研究が行われています。その背景には、太陽電池やフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられている酸化インジウムスズ(ITO)が、In資源の枯渇および価格急騰が深刻化し、その代替材料の開発が急務とされていることが挙げられます。ZnOはドナー添加量によって抵抗率を広い範囲で制御できるので、透明導電膜に加え、透明薄膜トランジスタ(TFT)にも利用できる材料です。私たちの研究室では、半導体やガラス基板だけでなく、フレキシブルなプラスチック基板上への成膜も視野に入れ、100℃以下でも成膜可能な装置を地元の企業および山梨県工業技術センターと開発しました(図1)。原料は高純度亜鉛と酸素で、それぞれ独立して基板に供給します。高温での化学反応を用いないため、酸素をプラズマによって活性化し、反応しやすい状態にして供給します。各種基板上に成膜した結果、可視域での透過率が80%以上で非常に低抵抗(〜10-4Wcm)のものが得られています。またZnOは一般にコラム成長しやすい結晶ですが、低温成膜ということもあり、成膜したZnOの表面粗さは2nm以下と極めて平坦です。現在は、大面積基板上への均一成膜、プラズマ源の開発など、実用化に向けた開発を行うとともに、TFTの作製・評価も行っています。

2. マルチバンドギャップ半導体による高効率太陽電池材料の開発
 禁制帯中に中間バンドをもつマルチバンドギャップ半導体では、中間バンドが「飛び石」として働き、禁制帯幅よりも小さいエネルギーの光も吸収し光電変換に利用できます。このマルチバンドギャップ半導体として、II-VI族化合物半導体のテルル化亜鉛(ZnTe)に酸素をわずかに添加したZnTeO混晶の研究をしています。酸素は電気陰性度が大きいために電子を局在化し、その局在準位が禁制帯中に形成されます。しかしZnTeOは非混和性が強く、酸素の組成を均一にすることは困難です。そこで、分子線エピタキシー法でRFプラズマによる活性酸素を用いたエピタキシャル成長を行っています。現在までに、0.5%程度までの均一な酸素組成のZnTeO混晶が成長できており、局在準位を介した光吸収によって自由キャリアが生成できることが検証できています。

3. 半導体量子ナノ構造の作製と新機能機能素子の創製
 ナノ光・電子機能をもつ半導体として、量子細線の研究を行っています。量子細線は、微傾斜基板表面等に発生する分子層ステップにMBEを用いて選択成長しています。断面TEMで観察した格子像を解析すると、ステップの間隔に対応した量子細線が作製できていることがわかりました。この方法で量子細線内に磁性元素を並べ、スピンチェーンを作製することに取り組んでいます。このような希薄磁性半導体ナノ構造では外部磁場によって励起の移動が制御でき、局所光による励起輸送の解明および新機能素子が創製できます。その物性を探るために、極低温(4K)、強磁場(8T)中で光学特性を調査しています。

光・電子半導体材料とナノ構造機能素子応用の研究

図1 酸化亜鉛薄膜堆積装置(上)と作製した透明導電膜(下)