治水・利水・環境の調和した総合的な河川整備に向けて

治水・利水・環境の調和した総合的な河川整備に向けて

1.治水と環境を両立する河川技術

気候変動による豪雨の増加に伴う災害の増加、激甚化が懸念されています.2019年には流域全体のあらゆる対策によって洪水被害をしようとする「流域治水」の推進が国土交通省から示されました.他方,生物多様性や水資源等の自然資本の減少・劣化の低下などの環境上の課題が依然として多くが未解決です.COP15では2030年までに生物多様性を回復の軌道に乗せるために緊急の行動を取るといういわゆる「ネイチャーポジティブ」が発表されました.自然環境の機能を活用したグリーンインフラ(Green Infrastructure),防災減災に対するEco-DRR(Ecological Disaster Risk Reduction)といった,緑の活用に関する新しい考え方も提示されています.このような視点から,治水・環境の調和した総合的河川整備の実現と高度化に向けた研究を行っています.日本は歴史的に大きな水害を経験してきたため,被害を完全に防ぐのではなく,なるべく減らしながら,稲作などの水の恵みをできるだけ得るという考え方で伝統的に国土を管理してきました.氾濫を許すことは生物多様性保全に重要な湿地の保全や再生にも寄与します.日本の中でも伝統的な治水システムは,河川や土地の特性に応じて異なる特徴を有しています.これらを現代的治水施設と共存させながら,自然環境にポジティブな影響を与える方法を探求していきたいと考えています.(写真1)

 

2.3次元技術による新たな河川デザイン

近年の建設分野では,測量,流れの解析,自動施工,デジタル空間の可視化といった,3次元の技術が高度化しています.現実世界をそのままデジタル空間化し,様々なテストを行う「デジタルツイン」や,デジタル空間でコミュニケーションやサービスを享受する「メタバース」といった新たなコンセプトが登場し,インフラデザインを大きく変革しようとしています.このような技術は決して一部の高度な技術者だけのものではなく,例えばゲーム空間構築に用いられるゲームエンジンと呼ばれるソフトウェアは,極めて高い3次元空間描写能力を持ちながら,ゲーム以外の用途であれば無料で利用することが可能ですし,利用できるオープンデータも広がりを見せています.一方で,技術の普及,効果的な活用,ワークフロー,行政手続き上の課題など,3次元技術を社会にうまく適合させていくためにクリアすべき課題があります.私は川づくりの3次元化を切り口とし,産官学が課題を共有する場で議論を重ねることで,3次元技術による地域社会貢献に何が必要かを研究しようとしています.(写真2)

 

 

治水・利水・環境の調和した総合的な河川整備に向けて

(写真1) 伝統的治水システムの一つである霞堤と水害防備林(久慈川)

治水・利水・環境の調和した総合的な河川整備に向けて

(写真2)ゲームエンジンを利用した伝統的治水システムの表現