バイオをはかる、バイオではかる

バイオをはかる、バイオではかる

生物が作り出す分子は様々な機能を持っています。これら分子の機能の詳細な役割を簡単に知ることができるようなセンサを開発したり、逆にこれら分子の持つ「物質を見分ける力」を利用するようなセンサを作り出したりすることができれば、生命科学の基礎研究に役立つだけでなく、創薬や診断、環境計測、自己健康管理など、様々な分野でこれまでにできなかったような計測が可能になります。

 

令和2年8月に新しく立ち上がった研究室では、これまでにない高時間空間分解能で分子濃度分布を可視化する手段として、バイポーラ電極と呼ばれる、多数のセンサを一括してワイヤレスに動作させることができる電極に着目して、新しいイメージングシステムを開発しています(図1)。これにより、細胞同士がどのように化学物質をやりとりしてコミュニケーションしているのかを知ることができるシステムにしたいと考えています。

図1. バイポーラ電極を用いるイメージングシステムの模式図(左)と、開発したシステムで取得した細胞塊(右上:光学顕微鏡写真)の呼吸活性(酸素濃度分布)イメージ(右下)。

 

また、バイオセンサと呼ばれる、生物の作った分子をセンシング素子として用いる様々なセンサを作っています。例えば、エンドトキシンという、ごく微量に環境から透析液に混入して、人工透析患者さんの体調を著しく悪化させる分子を、カブトガニの血清反応を利用して簡単に検出できるセンサを開発し、安全な透析医療につなげる研究を行っています(図2左)。また、トイレに設置して「かけるだけ」で繰り返し使える尿タンパクセンサを、生物由来のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)とタンパク分解物のグルタミン酸を酸化させる酵素(グルタミン酸オキシダーゼ)を利用して開発しています(図2右)。このような簡便なセンサが実用化されれば、医療現場の安全確保だけでなく、日常さりげなく自分で自分の健康を管理することにより、病気になる前に不調を検知して健康な状態に戻すことができ、人生100年時代に最後まで元気に、社会に医療費負担をかけずに過ごすことができる社会を実現することができると考えています。また、このような「デジタルヘルス」はコロナ禍をきっかけに急速な成長を見せており、新たな産業としても注目されています。

図2. 開発しているバイオセンサの例.エンドトキシンセンサは、カブトガニの血清反応を利用し、遊離するパラアミノフェノールを電気化学法で簡易に検出する(左)。尿タンパクの「かけるだけ」センサは、プロテアーゼおよびグルタミン酸オキシダーゼの2種類の酵素を利用し、尿中タンパク量を電流として検出する(右)。

研究室のモットーは「面白いことをやろう。新しい道を開こう。」です。バイオ分野で見つかっている現象を知り、それを簡便に検出できる装置や、それを利用する新たなセンサを開発することにより、社会にインパクトがある新しい計測法を提案できると考えています。このようなことに興味のある学生や企業と新しい研究を進めて行きたいと思います。