計算機シミュレーションを用いた物質科学の研究

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 材料科学、物質科学の部門において実験だけではなく近年では計算機シミュレーションを用いた研究が重要であると認識されています。私の研究室では主に古典分子動力学法と電子状態計算の2種類の手法を用いて材料科学・地球科学・物性物理学の分野で広く興味を持たれている物質の研究を行っております。私が対象としている物質は主にシリカ(SiO2)とその他の酸化物で構成される珪酸塩結晶・液体と氷(H2O)の結晶です。

 古典分子動力学法では原子の間のポテンシャルエネルギーを式として与えることによって力を計算し、ニュートン方程式に従って運動させることでコンピュータの中に物質を再現し、注目している性質の計算を行います。この手法は後に述べる電子状態計算に比べると単純であり、その分大きいサイズの系、長い実時間の計算を行うことができます。図1はNa2Si2O5液体のシミュレーションのスナップショットです。圧力の異なる左右で、大きく異なる性質を持つのですが目で見てわかりますか?目で見てもわからないので構造の特徴を明らかにする解析方法の開発も行っています。もちろん、こういった物質科学の研究だけでなく、ガラス材料などもう少し何に用いられることになるのかわかりやすい物質の計算に基づいた研究も行っています。

 電子状態計算は、シュレディンガー方程式を解くことで電子状態を計算し、そして物質の性質を明らかにする手法で上記のものと比べると計算量が多く小さい系しか計算ができないのですが、仮定が少なく様々な系に対して適用できるユニバーサルな手法です。この手法を用いて現在は主に氷、エタノールなどに着目して研究をしています。氷は2017年現在、プレプリントサーバに投稿されているものを含めれば18種類の構造が見つかっております。その構造について、また微量の不純物が含まれたときの効果などを、実験を行っているグループと共同で研究を行っています。図2は研究室のコンピュータを用いて計算した中で最大の系であるもので、氷VIIIに微量のMgCl2が取り込まれた際の体積と構造の変化を計算したものです。

計算機シミュレーションを用いた物質科学の研究

図1 Na2Si2O5液体のシミュレーションのスナップショット。左が0.1MPa (大気圧)のもので、右が8 GPa(8万気圧)のもの。この画像の作成にはVESTA (Momma & Izumi, 2011)を用いています。

計算機シミュレーションを用いた物質科学の研究

図2 電子状態計算で得られた142個のH2O分子で構成される氷VIII結晶中にMgCl2が取り込まれた構造