量子可積分系に付随する代数系の表現論

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 主な研究テーマは量子可積分系に付随する代数系、特に量子群や変形W 代数の表現論です。数学では物事の現象・様相を調べるために、対応する数学的な対象-然るべき条件を満たす要素と演算から定まる集合-を扱うことがあります。このような集合を代数系と呼びます。量子群や変形W代数は、波動関数が具体的に記述できる量子力学に付随する代数系です。また、複雑な代数系を調べるために(必要ならば代数系に条件を加えて)、その要素を比較的扱い易いベクトル空間(ベクトル達の集合)に作用する行列として記述する、つまり代数系をベクトル空間上に表現することがあります(代数系を表現するベクトル空間を表現空間、作用する行列を表現と呼びます)。表現空間または表現について成り立つ理論が表現論です。

 物事の現象・様相を調べるにあたり、初めから与えられた代数系の表現を調べることで現象・様相を再現する、ではなく、現象・様相の性質を反映するベクトル空間と作用する行列を構成し、その行列を用いて表現されるような新しい代数系を構築する、という試みがなされることがあります。構築された代数系に加える条件を変えることによって、いろいろな表現(つまり現象・様相)の記述ができ、未だ知られていない現象・様相が数学的な厳密性をもって予想されることもあります。量子群や変形W代数はそのような過程を経て構築された代数系ともいえます。

 代数系の表現空間であるベクトル空間の構造を知るには、その基本量である基底を構成することが挙げられます。ベクトル空間の基底とはある種の良い性質を持つベクトル達のことで、基底が分かればベクトル空間全体を構成することができます。一般にベクトルには様々な記述の仕方があり、多項式を用いて記述されることもあります。例えば私達の研究では、変形W代数のある表現空間の基底がMacdonald-Koornwinder 多項式で記述されることが分かりました。Macdonald-Koornwinder 多項式はいくつかの条件から定まる多項式で複数の型(種類)があり、具体的な明示公式を書き下すことは簡単ではありません。この多項式の明示公式を記述すれば複数の型(種類)に対応する変形W代数の性質を調べることができ、また、新しい代数系の構築も期待できると考えています